京都村日記

【京都村取材記】vol.4 ちいさな実からつながる

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ちいさな実からつながる

トチの木のことをご存知ですか?
高さが25m以上になることも珍しくない大きな広葉樹で、水気を多く含んだ土壌を好むため、沢の近くで育ちます。

この木から実るトチの実は古くから保存食として重宝されてきました。
そのトチの実を使って自分たちの集落を発信しているのが、京都府綾部市にある古屋というところです。

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「京のまちが開かれるまえからずっと続いているかもしれないこの集落を廃村にしたくない。このおかきづくりは廃村にしないための基礎づくり。」

と、語ってくれたのは今回古屋の案内をしてくださった渡邉和重さん。
9年ほど前に東京からUターンし、水源の里 古屋の代表として古屋の窓口をされています。

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5世帯6人のいわゆる過疎高齢化集落の古屋。 村おこしを始めたのは8年前(平成18年)、綾部市が制定した水源の里条例(※)がきっかけでした。

「あの時に立ち上がってよかったよね。あと3年遅かったらさすがに無理だったかも。 みんなまだ70後半から80歳過ぎやったもんね。」

と、笑いながら立ち上げのときのお話は始まりました。 そうなのです、いま現在活動しているおばあちゃんたちは80〜90歳のスーパーおばあちゃんたちなのです!

(※)水源の里条例
「上流は下流を思い、下流は上流に感謝する」を合い言葉に、過疎・高齢化が進み、共同生活の維持が困難な集落を「水源の里」と位置付け、これらの集落の振興と活性化を図るための活動。

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8年前、いまのままでは村が無くなってしまうという切実な思いから立ち上がったおばあちゃんたち。
約1年をかけてトチの実を使った商品開発を行いました。

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「トチの実を拾って、流水にさらして、干して、あっためて、皮をむき、アク抜きして…トチの実の下ごしらえするだけでものすごく大変なんです。」

元々、トチの実をつかったお餅が保存食として一般的だったので、このあたりのノウハウはおばあちゃんたちにとってはなじみの工程だったそう。

「実の準備が終わったら餅米と一緒に蒸して、こねて、棒状にして乾かします。
数日たったら薄く均等に切って、それを約1ヶ月間日陰干ししたらオーブンで数分焼いて、完成です。それを1枚ずつ袋に詰めてラベルを貼るところまですべておばあちゃんたちの手作業。もちろん無添加です。」 完成まで3ヶ月はかかり、1日に60袋つくるのが限界だそう。

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こういった活動がメディアにも取り上げられ、徐々に知られるようになりました。 今では「古屋でがんばろう会」という都市部からのボランティア団体ができ、年間500名ほどの人たちがトチの実拾いや雪かきなどの手助けをしにやって来てくれる。 もちろん、最初はこんなに大勢の方が来てくれるとは、夢にも思っていなかったそう。

「若い人たちとの交流のおかげで元気がもらえる。 険しい山の中にトチの実を拾いにいくことも私たちだけでは出来んし、 本当に助かってるんよ。」

そう、活動の源であるトチの実が拾えるところはかなりの山奥。 実際に案内していただきました。

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15分ほど川をつたって登っていくと、大きな大きなトチの木が目の前に。
この森で数百年も生きている生命力に圧倒されました。

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「このあたりで秋になると大体400kgくらいのトチの実が取れます。」

「土と水があわないと育たないトチの木がこれだけ立派に育っている。
この森を守っていかないといけない。」

トチの木の生えている周囲はぐるりと網で囲まれていました。
この作業を手伝ってくれたのもボランティアの人々だ。

「この網がないと、あっという間に鹿に全て実を食べられてしまうんです。」

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さらに川をつたって森の奥へ進んでいくこと約5分。 山の斜面の中腹に石で囲まれたところから水がぽたぽた滴っていました。

「これが古屋川の水源です。上林川、由良川と合流し、日本海に流れます。」

確かにこの上の斜面を見ると、水が流れていません。 教科書で見た、山から水が湧き出て川が始まっているんだ!という事実を自分の目で初めて見て感動した取材陣でした。

実際に飲んでみると、ほんのりあまい、本当においしいお水でした。

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この森を守っていくことも、トチの実を拾うのも、生活を維持していくことも、古屋の住民だけではできないのが現状です。 そのことを受け入れて、外部の人たちに手助けしてもらいながらいろんなことが成り立っています。

「8年前までは出来ない理由を探していた。 でも、一回それらを全部捨てて最後のチャンスと思ってやってみたら、ここまでこれた。」

今後は空き家を改装して、村に来た人たちが泊まれるようにしようというプロジェクトも始まるらしい。

小さなトチの実から大きな波が生まれてきている。けれどもおばあちゃんたちはマイペース。

「忙しいときは朝から晩まで毎日働くこともあるけど、無理のない範囲でトチの実であそばしてもろてる。」

 

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このトチの実の更なる特産品づくりも考えている古屋のみなさん。

「アイデアは常に募集中!どんどんやってかんとね」

まだまだやったるで!と言わんばかりのおばあちゃんたちに負けないパワフルな方、アイデアお待ちしてます。

もちろん、トチの実拾いや鹿除けネット設置のボランティア、ただ話を聞きにいくだけでもいいので、とりあえず一度古屋に行ってみて下さい。

きっとまたおばあちゃんたちの笑顔に会いにいきたくなります。

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古屋に到着すると、渡邉さんと3人のおばあちゃんが出迎えて下さった。さっそく地域や取り組みについてお話を伺ったが、廃村なんてそうは問屋がおろさねぇと言わんばかりの力強さだった。 90歳のおばあちゃんがスーパーカブを乗り回し、最近新調までしたと聞いた。私の知っているおばあちゃんじゃない。 「トチの木を見せてあげる」と渡邉さんに案内されて入った山奥。「クマが出るからこれ付けておいて」と渡された鈴。恐ろしさを感じながら道なき道を歩き、辿り着いた先には湧水の起点と樹齢数百年のトチの木。その木に触れた瞬間、何とも言えない安らぎの気持ちにさせてくれた。ひんやりと冷たい木の体温を感じながらこの村を残していこうと決めた古屋の人達の顔を思い浮かべた。 今年の秋はトチの実拾いかな。(2014年5月)

文章:はやしりえこ/はしもとなつみ
イラスト:はやしりえこ
写真/レイアウト:はしもとなつみ

ご協力:古屋のみなさん
古屋でがんばろう会FBリンク
2014年6月


2014.06.30 / 京都村取材記