京都村日記

【京都村取材記】vol.1 どんつきの村で

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どんつきの村で

京都府南丹市にある日吉(ひよし)町世木(せき)地域、ここは殿田(とのだ)区、木住(こうずみ)区、生畑(きはた)区、中世木(なかせき)区の4つの集落が川と山に囲まれています。

「ここの地域は手のひらのカタチになっているんだよ。」

と教えてくれたのは、今回世木を案内してくださった南丹市役所 日吉支所の浅田さん。

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川と山に囲まれた土地だからこそ生まれる「どんつき」(突き当たり)。 この地域の人口や生産力もどんどん低下していき、「どんつき」の底に手が届いてしまうかもしれない。 そんな状況のなか生まれたのが「世木の里づくり委員会」。各集落から人が集まり、活動が始まったのが2年前。そこからいくつもの企画が生まれ、実施されてきました。

「地域資源の扱い方についてみんなで話し合う場ができたこと。それと地域外から持ち込まれた企画について、まず話を聞いてみようというスタンスができたのが大きい。」

活動について説明していただいた際、資料としていただいたのが「世木の里づくり委員会通信」。活動の進捗状況や、イベントスケジュールなどを載せ毎月発行しているのです。

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「こうして過去の実績をこまめにまとめておくことで次の話ができる。」

決してパソコンが得意なわけではないけれど、やらないと!という思いから実際にやってみて、継続している。その小さな積み重ねが活動の礎となっているんだろうな、と感じました。

お話を一通りしていただいたところで、実際に世木地域を視察へ。 雨が降ったり止んだり、強い風が吹いたりした不安定なお天気のなかでの取材でした。

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「え?ここで?」っと思わず声に出してしまうくらい、いきなり道端に車が停車。

「見てごらん、あっちの方」

と言われても一瞬どの方かよく分かりませんでしたが、よく見てみると、川の底がそのまま地上に出て来てしまったような一帯がありました。

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「去年の台風18号で畑に川が被ってしまったの。今年の田植えはもう間に合わない。いつ片付くのかもよくわからない。」

被害が大きく報道されていない地域でも、台風の爪痕がこんなにも残っていることに衝撃を受けました。

しかしこの付近では毎年、川のカタチがわかるくらいの蛍があらわれるそう。
今年もたくさんの蛍が飛び交うことを願っています。

さて、次に訪れたのは小さな倉庫。

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シャッターを開けると、そこには大きな機械が!

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「これがあれば他の農家のお米が混じることなく、自分のとこのこだわったお米だけを乾燥させて、玄米にできるようになる。」

と、嬉しそうに話してくださったのが、農家の新矢さん。

この乾燥機は「世木の里づくり委員会」の農業関連グループが導入したもの。今年の収穫から使用されるとのこと。

「化学肥料を使わず、家畜の糞や落ち葉などで土からこだわって無農薬で育てたお米も、今までは農協の乾燥機で他の農家さんのと混じってしまっていたけれど、これがあれば自分でつくったものを自分で食べられる。これは嬉しいですよ。」

逆にいままで、それができていなかったことに驚いてしまいました。自分でつくったものを自信をもって売り出すことができるということは、ブランドとして売り出せる可能性があります。

…と、ここで嬉しい事実が発覚。 実は新矢さん、いのちの里 京都村の「京都村エクスプレス(※)」でお野菜の提供をしてくださった農家さんのお一人だったのです!

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お野菜を提供していただきましたが、実はお会いするのは初めてでした。

「そんなに大量に持ってってもらってるわけでもないけど、どうせ食べきれなくて捨てちゃうものがちょっとしたお小遣いになるしね。こういった取り組みに参加できてみんな喜んでるよ。」

と、嬉しいお言葉をいただいて感激でした。

ニコニコしながらお話してくれた、笑顔が素敵な新矢さん。またよろしくお願いします。

山道をどんどん登ってたどり着いたのは、昨年の台風18号による大雨の際に大活躍した日吉ダム

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過去最大の雨水流入を受けながら限界まで水を溜め込んで下流の被害を最小限にとどめ、京都市街地への甚大な氾濫被害を回避しました。

この日吉ダムのすぐ下にあるのが、道の駅「スプリングスひよし」。

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温泉やプール、BBQ施設なども兼ね揃えてた複合施設で、観光の方だけでなく地元の方の出入りも多く見られるところでした。

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お次は、山間部であるがゆえに大音量の音が出せるというメリットを活かし、音楽フェスなどの会場にもなったスチール®の森 京都(府民の森 ひよし)へ。

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「自分たちで何かしないとね、誰も動いてくれないよ。」

と、力のある言葉でお話してくれたのはここで働いている片山さん。 スチール®の森 京都の中心部、森の広場にある資料館に展示してある様々なワークショプの企画についてお話を伺ったときに印象深かった言葉です。

散策できる森に囲まれた大きな広場、たくさんの宿泊施設や木工室、大規模なドッグランもあります。 立派な施設がたくさんありますが、寒い冬の時期には何もできない。この問題をどうするか?

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もうひとつご紹介したいところが、宿泊施設「木もれ陽の宿 日吉山の家」です。

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中に入ってまず出迎えてくれるのが、きれいな囲炉裏でした。

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純和風の客室と和室の大部屋(宴会もできますとのこと)がある本館のほか、コテージやBBQハウス、小さなグラウンドもついています。
目の前に流れている清流には、初夏には蛍も飛び交うそう。

玄関にはスポーツ合宿で訪れた子供たちのネームプレートがいくつも飾ってありました。確かに、合宿や研修におすすめな環境でした。

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「今までこんなことをしてきたんだけど、次はこうするんだ。」

あいにくのお天気でしたが、半日の間にたくさんの場所へ連れて行っていただいて特に印象的だったのは、この言葉に何度も出くわしたこと。

資源もあり施設もあり、そして何より話あえる人、やってみようという人がいる。地域にとって、それが一番必要なものではないでしょうか。

最後に、日吉支所の浅田さんからのメッセージです。

「どんつきの村だからこそ、何かに活かせる可能性があるかもしれません。 雪だらけの冬の時期にしかできない楽しいイベントを作ることができるかもしれません。 通り過ぎることのできない、道の終着地として、この村に行ってみたいと思えるような、 そんな『どんつき』を逆手にとったアイデアをお待ちしています!」

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地域全体を5本の指で表すことができ、地図を広げて世木地域に掌を重ねると、それぞれの指に沿って川が延びていく。そしてその先に待っているのがどんつきだという。昔話のような説明を受けたとき、なんてかわいい集落なんだと思った。
取材中には「○○さんが作ったお米がものすごおいしかったんや!どやって育てたんか聞きにいってきたわ!」と熱く話してくれる農家さんに出会い、農家さんの職人魂に火が付いた瞬間を見た気がして胸が熱くなった。かっこいい。
帰宅間際、ゆるキャラのゆっぴ~を眺めていたら、「あれ、バリィさんより先やってんで」とぽつりと説明を受け、爆笑してしまった。この日からゆっぴ~派となることを誓ったのは言うまでもない。

文章:はやしりえこ/はしもとなつみ
イラスト:はやしりえこ
写真/レイアウト:はしもとなつみ

ご協力:世木地域のみなさん
2014年5月


2014.05.01 / 京都村取材記